Long

□アイスクリームが溶けそう
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「―暑い」

ギシギシ軋むベットに座り込む。
窓から流れ込むお世辞にも涼しいとは言えない生ぬるい風が頬を撫でる。

「市丸、クーラー無いの?」
「まだ7月やで?」
「暑いんだよ。溶けそうだ」

市丸の部屋にはちゃんとクーラーがあるのだ。
なのにあいつはこれからもっと暑くなった時辛いからってつけてくれない。
でもこれじゃあ、もっと暑くなる前に溶ける!

暑さでだるいし、苛々するし、それがまた体感温度を上げている。

「暑い…」

力尽きるようにパタリとベットに倒れる。
すると、市丸が動く気配がした。

「何処行くんだよ…」

暑さとダルさのせいで声に覇気が無い。
対する市丸の声は含み笑いが混ざったような明るさだった。

「ふふん。お楽しみや」

俺の視界には白い天井しか映っていないが、彼奴はきっと笑っている。それも何時もの張り付けたような笑みでなく、ごく一部に向ける笑み。
何がそんなに楽しいのかルンルンと部屋を出て行った市丸の軽い足音が階段を下る。だんだん遠くなって行く足音。その代わりというように蝉の大合唱が更に大きくなった。

あぁ、暑い。




§§§



暑いなぁ。


市丸は階段を降り、リビングへと入る。
頭の中に浮かんだのは上でへばっている子と同じ文字。だからと言ってクーラーをつける気はない。だってまだ7月。焼けるような夏は始まったばかりなのだ。
ひたひたと裸足で歩くフローリングの床はどことなくひんやりしていて気持ち良かった。冷蔵庫の前に立ちその扉を開くとどっと冷たい空気が流れ出る。

「おぉ〜涼しいわぁ」

ほとりと落ちる感嘆のため息も仕方がないと思う。しかし溜め込まれていた冷気もすぐさま常温に溶かされて冷蔵庫がブゥンと唸りだす。

「あれ、ご機嫌斜めなん?」

ふふと笑ってやるとまた冷蔵庫はブゥンと唸った。早く閉めろということか。確かにこの暑さだ。冷気を留めとく身には辛いかもしれない。ではさっさと用事を済ませようと冷たい箱の中へ手を突っ込む。ガサリと二つの袋を引っ掴んで、バタンと扉を閉めた。
二階に戻ろうと足を向けると背後からブゥンという音が聞こえる。
あぁもしかしたら、これも暑い暑いと訴えてるのかもしれない。

「…ぷぷ」

なんて馬鹿らしい事を考えて、笑う。自分の頭もこの暑さに参っているのだろうか。
ひたひた歩くフローリングはやっぱりひんやりして気持ち良かった。












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